人が安心して生きられる社会をつくりたい――その想いから、NPO法人こころひまわりの活動は続いてきました。心理学や社会科学をベースに、一人ひとりの心に向き合いながら「心のインフラ」を整える取り組みを行っています。長年の試行錯誤の中で見えてきた価値観や使命、そしてこれからの展望について、若尾美希子氏に伺いました。
心のインフラを整えるということ
――現在の事業内容について教えてください。
私たちは「人が安心して生きられる社会をつくる」ということを軸に活動しています。その中で大切にしているのが、「人と組織、地域が本来の力を発揮できる土台(心のインフラ)を整える」という考え方です。一人ひとりの感情や思考の癖だけでなく、関係性や関わり方の土台にも目を向けることで、それぞれが自然に力を発揮し、共生・協創できる社会を目指しています。私たちは、そのために一人ひとりが自分らしく生きられる状態を育む、学びや対話、関わりの機会を提供しています。
――企業理念についてお聞かせください。
いくつかあるのですが、根っこにあるのは「自分を大切にすることが最高の社会貢献」という考え方です。自分自身が満たされていない状態で誰かのために動こうとすると、どうしても無理が出てしまうんですよね。だからこそ、まず自分を大切にすること。それが結果として社会にも良い影響を与えると考えています。
――御社の強みは何でしょうか。
私たちの強みは、心理学と社会科学という二つの視点から、個人の生きやすさだけでなく、会社やチームの関係性まで見ながら関われるところだと思います。目の前の出来事を個人の問題として片づけるのではなく、関係性の構造から見立て、現場で起きている違和感や小さなズレを丁寧に整理していきます。その上で、経営者の想いや理念を現場で機能する言葉や関わり方へ、また現場の声を経営者に届く形へと翻訳しながら、無理なく関係性が変わっていく関わりを大切にしています。その結果、経営理念を現場レベルまで落とし込むための施策が機能しやすくなり、チームや組織が本来の力を発揮できるようになると考えています。
試行錯誤の中で見えてきたこと
――これまでの歩みについて教えてください。
小学生の頃から、父と一緒に、創業者の苦労や成功に至るまでの過程を特集したテレビ番組をよく見ていました。そうした影響もあって、ビジネスを通して、みんなが幸せになるためににできることは何かを考えるようになったんです。2000年には大学を休学し、大学卒業後も就職という道には進まず、ビジネスを通して地域の課題解決に取り組もうと試行錯誤を重ねてきました。思うようにいかないことだらけでしたが、そうした積み重ねの中でたどり着いたのが、「心のインフラを整える」という視点でした。
――印象に残っている取り組みはありますか。
琉球大学との産学官連携事業として、学生起業家さんの支援に関わったり、沖縄の繁華街・松山で夜の社会で働く若者たちのための学びの場をつくっていた時期があります。深夜に仕事が終わった後に学びに来るような場だったのですが、その中で、自分の力不足も痛感しましたし、人が育ってきた環境の影響がこれほど大きいのかということも目の当たりにしました。結果的に、その取り組みはいったん撤退することになりました。ただ、その経験があったからこそ、「もっと早い段階で関わる必要がある」と感じるようになり、その後の子ども食堂の取り組みなどにもつながっていきました。この10年は、そのときの反省や気づきを活かしながら、活動を磨いてきた時間だったと思います。
――現在の活動の考え方に変化はありましたか。
大きく変わったのは、「自分たちが居場所をつくる」という発想から、「すでに居場所になっている人を支える」という考え方にシフトしたことです。また、世の中を変えるためには、NPOでもしっかりと稼ぐ必要があると考えるようになりました。子ども食堂や地域の場を運営している方たちは、本当に頑張りすぎてしまうんですよね。相談を聞きすぎて疲れてしまったり、自分の時間を削ってしまったり、私財が底を尽きてしまったり。そういう方たちが燃え尽きないように、お金の切れ目が支援の切れ目にならないように、経済をきちんと回しながら支援を続けられるNPOのモデルを目指すことも、私たちの大切な役割だと思っています。
判断の軸と大切にしていること
――意思決定の際に大切にしていることは何ですか。
「自分がやっていて楽しいか」「すり減らないか」ということを大切にしています。結局、無理をして続けることはできないので、自分が納得して動けるかどうかを大事にしているんです。その一つの目安として、「ありがとう」と言ってくれない人を悪者にしてしまったら、やりすぎのサインだと思っています。そもそもこの活動も、誰かのためというより、自分自身の生きづらさや、今の社会の状況を見ていてつらいと感じたことがきっかけなんです。苦しんでいる人や、選択肢がなくて追い込まれてしまう人がいる状況を変えたい。そうした想いで学んできたことを、必要な人に届けているという感覚です。。
――社会に対しての使命はどのように考えていますか。
これからは「心の明かりを灯す」という表現で伝えていこうと思っています。今までは「ご機嫌さん」という言葉を使っていたんですが、必ずしも笑顔でいる必要はなくて、心の中に明かりが灯っていること、つまり、自分や相手の真心を信じられることのほうが大事だと感じるようになりました。心の明かりは、届けようとしなくても、それぞれの人の半径3メートルくらいのところに自然と広がっていくものだと感じています。その明かりが重なりながら広がっていくことで、街全体が安心して過ごせる、あたたかな社会になっていく。そんなまちづくりを、老若男女、個人や組織、地域など、さまざまな立場の方と関わり合いながら、一緒につくっていきたいと思っています。
これからの挑戦と広がり
――今後の取り組みについて教えてください。
今は、法人向けサービスをどう形にしていくかを考えています。これまでも経営者や現場リーダーの方が個人で来られることはあったんですが、それを「法人向け」として整理できていなかったんですよね。今回の経験を通して、伝え方や見せ方を変える必要があると気づいて、今ホームページも作り直しているところです
――今後の展望を教えてください。
「あかりのたねプロジェクト」「ご近所さんプロジェクト」という二つの軸で進めていこうと思っています。沖縄を拠点にしていますが、これを全国に広げていきたいと考えています。そのために、心理学や社会科学を個人や組織に取り入れやすくするための仕組みづくりを進めながら、心のインフラを整えるコミュニティも育てていきたいと思っています。そして、プロジェクトに賛同し、ご寄付を通して応援してくださる方も増やしていきたいです。NPO法人にとってご寄付は、活動を支えていただくことでもありますが、同時に、社会にこうした課題があることを知っていただけた証でもあると感じています。まちづくりに関わってきた私たちだからこそ、これまで見てきた、出口の見えない真っ暗なトンネルにいるような残念な現実も、そこに確かにある希望の光も、その両方を一人でも多くの方に届けていきたいと思っています。
これから出会う人たちへ
――最後に読者へメッセージをお願いします。
どれだけ頑張っている人でも、心に明かりが灯っていないまま走り続けると、いつか無理が出てきます。それは心や体の不調として表れるだけでなく、人間関係のトラブルや、時には事件や事故のような形で表面化することもあります。だからこそ、自分の心が今どんな状態にあるのかを大切にしてほしいと思っています。こころひまわりに興味を持ってくださった方は、ぜひ一緒に活動に関わっていただけたら嬉しいです。学びの場に参加する形でもいいですし、応援という形でも関わっていただけます。一人ひとりが自分の心に明かりを灯し、その明かりが、届けようとしなくても周りに自然と広がっていく。そんなまちづくりに関わる人が増えていけば、きっと社会はもっとあたたかくなると思っています。一緒にその未来をつくっていけたら嬉しいです。